2010年6月18日金曜日

貸金王に学ぶ、世の中の動かし方



 貸金王と言えば、武富士の武井保雄会長を思い出す。この人は埼玉県深谷市の出身で、深谷市と言えば、深谷ネギの他、渋沢栄一翁とか、後はドトールコーヒーの鳥羽博道会長なんかもいるのだけど、それはさておき。結構、ワンマンで有名だったようだ。※参考 →Wikipedia

 このウィキペディアの記事に書いてあるけれども、「右翼は暴力団に弱い。暴力団は警察に弱い。警察は右翼に弱い。この三つをうまく使って物事を収めろ」 とある。この言葉自体は自分も新聞で読んだことがある。

実にこの洞察は鋭い。世の中はじゃんけんぽん構造になっているから、相手がパーならこっちはこっちはチョキを出す。チョキならグー、のような、要するに後出しじゃんけんでトラブルに勝てばよい、という教えなわけである。

 これは武井会長の視線からものを見ているからこのような言葉になるのだろうけれども、もっと一般的な使い方をするのであれば、「政治家は企業(実業家)に弱い。企業(実業家)は役人(行政)に弱い。役人(行政)は政治家に弱い。だからこの方法を使えば世の中は楽に動かせる」と翻訳することができる。

 つまりどういうことかというと、政治家は政治活動をするにはカネが必要だが、それを出すのが企業やその中心にいる実業家だ。政治家は生産的な仕事についておらず、政治の方向性を考えることと、税金などの予算の使い道、そして行政の監督が仕事なので、政治献金などがなければ活動がうまくいかない部分がある。なので、政治家が困ったことをするようならば、その支援者(実業家・企業)を困った政治家だから金を出すべきじゃないと説き伏せ、政治家を兵糧攻めにすれば良い。そうすれば政治家はもう動けなくなる。そんなわけで、基本的に政治家はカネを出す、あるいはもちろん票をまとめる相手の言うことをよく聞く。
 一方、企業は生産的な仕事をするが、その本質は利潤の追求ということになるので、これは法律の取り締まるところである。法律に沿わない利潤追求活動ということに認定されれば起業家はもう活動不能の状態になる。この法律の行使、つまり行政処分などという権力を持っているのが役所であり、それを司る役人なのである。そして最後、役人が使う法律を制定するのは政治家であって、その監視をするのも政治のパワーであり、また人事にも介入してくることから、役人は政治家に弱い、ということ構造になるわけである。

 武井会長は、性格的には色々な問題を抱えていたらしく、ある種サディスティックな部分も持ち合わせていたようであったが、あそこまで武富士が大きくなったのは、このスキームを押さえていたから、という部分が大きいんじゃないだろうかとも思える。警察からの天下りを入れたりするところに、日本の病理が見えたりするわけだけれども。

 さて、早速応用問題を考えてみよう。例えば、区(市)役所において、態度が横柄な職員がいたとする。しかし、直接その職員にクレームを入れても実際にはその改善というのはされないものだ。それはその職員の立場というものがあって、態度を横柄にするのがもっとも仕事をする上で楽だし、仕事もなるべくだったら少なくした方が失敗するリスクも少なくなる。何しろ減点主義の職場というのはそういうものである。しかし、その役所という職場を最終的に支配しているのは区(市)長であり、区(市)議会である。なので、その議員からクレームがくれば、職員にとってすごくマイナスの効果が現れる。だから、この場合、教えに乗っ取れば、とにかく紳士的に役所に対しては政治家ルートでクレームを付けることをお勧めする。つまり、この状況を後出しじゃんけんゲームに置き換え、相手がグーならパーを出す、ということだ。

 他にも通常の企業活動について統括しているのは行政である。もし隣のビルの工事がうるさければ、「建設課」や「まちづくり課」というのがあるし、商品に対する不具合については「消費者庁」がある。もしその行政からの許可などがあれば、業務差し止め命令などが発効されるので、行政からのクレームを企業側が無視することは事実上できない。
 しかし、何でもかんでもむちゃくちゃな要求をしても良いと言うことではない。無理をしていけば、最終的には議会の俎上に上ることになり、そこで民主主義のルールに基づいて処断されることになるだろう。しかし、地方の議会を見てみると、結構何でも好き放題やってるもんだなぁ、と感じることはあるのだけれど、そういうことを続けていると最終的には首長が変わるという疑似革命が起こったり、法律が改正されたりして、最終的に世の中のルールが修正されていくことになるはずだ。(多分)

 サラ金業界というやつも、あまりにもひどい取り立てやら、一家離散や自殺の原因、等々のおかげで、結局、「もうマトモだっていう証明のできるやつが、低金利で貸し付ける以外のことはしちゃダメ!」という法律ができることになった。改正貸金業法ってやつですね。

 (これはサラ金業界でなくて、事業者金融の話になるけれど)かつて、ナニワ金融道の真似をして「借金が払えないなら目ん玉売れ」で有名になったあの日栄やSFCG(旧商工ファンド)も潰れてしまった。後は隠した金を掘り出されて世間からのバッシングを受ける次のステージに行きましょう、の世界。

 だからこの世の中の動かし方も使いすぎには十分注意ですよ。あくまで専守防衛のための自衛活動でお願いします。
 会長のようにはならないで下さい。

(追記:「目ん玉売れ」は日栄だったようです。その後ロプロに社名変更し、会社更生法適用でまだあるみたいです。)

ここより余談。

  さて、カネの貸し借りというのは、普通にものを借りるのとは違う。よく言われるのが「借りた物を返すのは当たり前だろう」というあのセリフなのであるけれども、この貸し借りは「消費貸借契約」という、普通の貸し借りとは違った契約になっている。消費貸借契約というのは、その名にある通り、「消費」することを前提に組み立てられた契約であって、もしカネを消費貸借契約を貸せば、そのカネは貸した相手が使ってしまうし、コメや醤油を貸せば、これまた貸した相手が使ってしまうという特殊な契約だ。レンタカーでクルマを借りたら、同じクルマを返すとかいうのとは、元々ちょっと事情が違う。
 カネを貸すと言うことは、そのカネが返ってこないというリスクがあることを前提で双方が契約しており、そのカネを貸す方が「もしかしたらお金が返ってこないかもしれないよー怖いよー('A`)」と思う、ということを元々納得しているのである。そして、その借り主の方が「怖い思いをさせてごめんネ(゚∀゚)」代として「利息」というものを余計に払う、ということがあるのである。単なる利用料にプラスアルファがあるわけだ。

 だから、ちゃんとおカネを返す確率が低そうな相手に金を貸すのは「とっっても怖い」ので、利息は当然高くなるし、必ず返してくれそう、という相手に貸すのは「あんま怖くない」ので、利息は安くなるわけだ。この前ネットを眺めていたら「貧乏な人にカネを貸すのにどうして高い利息にするのだ?貧乏な人が返せなくなるじゃないか」という書き込みを読んだのだけれども、これまた「うーむ」と唸らせる一文ではあったが、貧乏だから高くするんじゃなくて、返してくれない恐れが高い、あるいは信用のない相手だから利息が高くなるのである。(信用がない≒貧乏、という図式だ)
 だから若くて月給が安くても、例えば公務員とかだったら安心だから割と低い金利でおカネを貸してくれるはずだ。

 しかし、そもそもそういうおカネを借りに行く、ということ自体が、稼ぐ額に比して余計にお金を使おうということの現れであるから、借りるの方の人間も、何かしらおかしな部分があるということになる。本当に金貸しがカネを貸したい相手というのは、借りに来ない相手なのだろう。

 サラ金のCMに出てくるあのセリフを見るたび「うーむ」と思ってしまう。「ご利用は計画的に」というあの一言(゚∀゚)。お金のご利用が計画的にできないから借りに行くんじゃないのか?(´∀`)と毎度思ってしまう。タバコのCMの「健康のため、吸い過ぎに注意しましょう」と同じぐらいなんかヘンである。健康に注意したいけど中毒になってるからやめられずに吸ってる相手に何言ってるの?(゚∀゚)っていうあの感じである。

余談終了。

 本日より、改正貸金業法完全施行ですね。
改正貸金業法:完全施行 大塚副内閣相らが街頭PR
http://mainichi.jp/life/today/news/20100619k0000m020061000c.html
同法は多重債務問題の解消を目的に06年に成立。今回の完全施行では、借入総額が年収の3分の1を超えている人は原則、新たな借り入れができなくなった。収入のない専業主婦は、借りる際に配偶者の同意書などの提出を求められる。また、出資法の上限金利を29.2%から20%に引き下げ、「グレーゾーン金利」を撤廃した。
【毎日新聞】


おまけ:
ウィキペディアで「武富士」の項を読むとこうある。
賭博黙示録カイジ(主要人物として、消費者金融を主体とする日本最大規模のコンツェルン「帝愛グループ」の総帥である老人「兵藤」(武→兵、富士→藤のもじり)が登場する)

マジかよ。兵藤のモデルって武井会長だった!?
知らない人は是非原作漫画を読むのをお薦めします。(よくラーメン屋とかに置いてありますけど、実に名作です。)



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