2010年8月10日火曜日

夏と戦争と言葉、そして未来



えっ。中国でも満州でもインド洋でも戦争してたのに「太平洋戦争」なんですか?

この季節にになると、よく話題になるのが戦争の話。なかでも太平洋戦争である。
和製英語という言葉があるのだけれども、実は逆方向の言葉である「米製国語」というのもあるんじゃないかと思う。

かつての戦争中、それまでは「大東亜戦争」という呼称が使われていたが、敗戦後、当時のGHQがこの名称の使用を禁止し、替わりに使われるようになったものが「太平洋戦争」であり、「第二次世界大戦」なのだそうだ。

日本の歴史を斜めにでも読めば、「太平洋戦争」という呼称自体が日本にそぐわないことが明らかで、もし「太平洋戦争」と言えば、「アメリカとの戦争」を単純にイメージしやすいし、「アメリカに敗北した戦争」という感じにもなる。しかし、実際にはアメリカとの戦いながら当時の中国とも戦争をしていたし、イギリス海軍とはインド洋で戦った。
「太平洋」という言葉でくくると、実際にその当時の日本の考え方や行動がうまく説明できなくなる。

おそらく「大東亜戦争」という呼称を禁止したのは、「大東亜共栄圏」というイメージがしやすく、結果、侵略者である白人達(実際、当時の東南アジアはヨーロッパ諸国の搾取の対象だった)からアジアを開放するための戦争だという、当時の日本の主張につながりやすい。このイメージを潰すためのひとつの心理作戦なのだとは思う。

また「第2次世界大戦」という言葉を使うと、「世界中戦争してたんだから、日本も戦争してたのはしょうがないよね」というイメージを作りやすい。「終戦」という言葉は誰が使い始めたのかわからないけれども、「敗戦」と呼ぶよりも、人間同士の抗争があってそうなったわけではなく、ひとつの災害が終わったようなイメージになる。

言葉をねじ曲げて歴史を修正する手法

そして今もそういう「米製国語」というのはあって、例えば「イラク空爆」というが、この空爆と空襲というのは全く同じものだ。しかし、空襲という言葉が新しくなって「東京大空爆」とは言わないし、「イラク空襲」とも言わない。あくまで過去の話は「空襲」であって、今の話は「空爆」である。だから仮にバグダッドが空爆されても、空襲じゃないから、降り注ぐ爆弾による街並みの爆発よる破壊や、火炎の中で子供を含む一般人が死んでいくイメージが作られにくい。あくまで軍事施設を攻撃している感じがする。

さて、日本人は「改革」という言葉が好きだ。一方で、西洋で用いられるのは「革命」だ。改革と革命がどう違うのかというと、改革はそれまでのやり方を変えるのに対して、革命はそれまでの権力者を一掃して新しい権力者が生まれることだけれども、日本は歴史が万世一系だから革命は起こったことがない。フランス革命での国王をギロチンにかけて民主主義を権力を奪い取ったというストーリーは日本にはないのだけれども、では、そういうエネルギーが日本国になかったか、というとそういうわけではないと思う。

結局、それが明治開国以来の戦争であって、そもそも権力者というか、強力なパワーを持ついやな存在、フランス革命で言えば国王であったりするものが、実は日本人にとっては「海外の得体の知れない国々」であって、それに対して大量の血を流して戦ってきた歴史がある。

そして勝ち取ったのが今の独立であり、主権であるような感じなのである。そのせいで、この時代になるまで本当に数百万人の犠牲者が出たわけなのだけれど、その結果、一応目標とする平和と繁栄を一度は勝ち取ったわけではある。

そして今後はどうしていくか

しかし、いまだに一方で戦争を起こした犯罪者みたいな自己イメージを不当に植え付けられている、というフラストレーションは持ち続けているわけで、経済と科学の発展というひとつの目的を達成した後、何とはなしにまだ満たされていない部分が残っているんじゃないかと思う。
結局、今の日本人の深層心理における自己イメージというのが、ドラえもんにおける「スネ夫」のようなものだろう。暴力的で横暴だが、ケンカで勝てないジャイアン(アメリカ)に対して媚びへつらい、カネと成績の良さ、自分より弱いのび太に対してあれこれ自慢したり高慢な態度で自らのプライドを補強している姿。わかっていながらそういう行動をやめられない自分を嫌いつつ、一方で過去、戦いを起こしたせいでアジアに迷惑をかけ、罪深い存在となったとして暴力を封印した今の姿がある。

将来、その満たされない気持ちが、過去の歴史の読み直しにつながって、それがまたこの国の方向性に影響を与えるという可能性はあるのかもしれない。

そう。負けはしたもののそして強きをくじき弱気を助け、幸せな社会をつくるために気高く、力強く、本来なら、高い尊敬を得られる立場だったところをまた目指す、とかそういう方向性に。

ただその時にまた力に対して力で対峙するのか、具体的に何と対峙するのか、どう行動していくのかは、まだよくわからない。

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